用事がないところには出かけない

無題
LINEで送る
Pocket

無題多田先生から教わった大切な教えの一つは「昔の侍は用のないところには出かけなかった」ということです。用のないところにフラフラ出かけてゆくから無用のトラブルに巻き込まれる。そう言われてみると、僕がこれまで関わったトラブルはすべて「行かなくてもいいところに行って、会わなくてもいい人に会って、しなくてもいいことをした」時に起きていた。そういうものなんです。だから、侍は散歩なんかしてないんです。勤めに登城する、武術や謡の稽古に行くか、家で書見するか、畑を耕すか、鉢木の手入れをするか、それくらいのことしかしないんです。トラブルに遭遇して、人を傷つけたり、自分が傷ついたりして本務に差し障りが出ることを侍は最もきらった。だから、「」というひと言に胸を衝かれたんです。

内田樹・鈴木邦男『慨世の遠吠え--強い国になりたい症候群』