[書評]神秘都市・東京を読む

無題
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【知られざる日常風景の背後】

無題

 

中沢新一『アースダイバー』講談社

 

本というもののよさは、出版時にかかわりなく、新しく出会えるところにある。かりに書かれたのが数十年前であったとしても、今日手に取った読者にとってその本は新たな体験であり、新たな出会いである。

この『アースダイバー』はまさにそのような鮮烈な読書体験をもたらしてくれる。

舞台は東京である。東京の街を歩いていると、時々なぜこんなに坂が多いのだろうと思う時がある。一度そんなマインドになってしまうと、稲荷がやたらに多いことも、寺や神社が特定の場所に集まっていることも何か意味があるのではないかと思えてくる。

著者は著名な人類学者であり、現在は「野生の科学」というコンセプトを世に示した人として知られる。この東京という都市、雑然とした、なんの必然性もないような空間が、実はその背後で巨大な古代からの回路につながり、同時に今現在を生きる私たちの無意識の通路とも深い部分で流通していることを身近な例で示してくれる。

東京の土地は、大きく言って洪積層と沖積層からなっている。前者は硬い岩盤であって、縄文時代からしっかりと存在し、後者は後の気候変動による海面の変化や河川の運ぶ土砂の堆積によってできた。

縄文時代は洪積層のみであって、フィヨルド状に深く海が侵食していたから、今の浅草、神田、銀座、新橋などそのあたりはすべて海の底だった。そんな成り立ちを持つ土地だから、東京には坂が多い。そして、かつて半島状の突端は聖地とされ、見えざる世界との交信の場であったと著者は言う。

では、そんな場所に今は何が建っているか。神社があり、寺がある。そして電波塔がある。

東京タワーは巨大な電波塔だが、芝という海に面した高台に立地している。いわば古代の無意識を鋭敏に現代人がキャッチした結果として、東京タワーはある種の人類学的必然を帯びて、そこにあると著者は言うのだ。なんとも不思議な説得力ではないか。

そのほかにも、次から次へとこの種の話が出てくる。秋葉原は本来日除けの神を祀った聖地であったという。それが今はオタク文化の聖地となっているのにも、一つの無意識を伝わった必然性があるという。そこは戦後、ラジオという未知との交信を行う「先進的な」人びとが集まる場に変わっていく。本来ラジオとは見えざる存在の声を聞くという点で見ると霊界通信のメタファー(暗喩)であったという。そこからラジオが家電に、そしてネットに変わり、今では見えざる存在を見る人々の聖地になったのだという。

著者は言う。「無意識に良いもわるいも関係ない。無意識は別のかたちをした自然なのであるから、つねに全体のバランスを回復することを心がけている。人間の社会は、こういう無意識に通路が開かれているかぎりは、どんな状況にあっても、健全さを失うことがない。」このように見ると、東京という都市がまったく違って見えてくるから不思議だ。それは神秘的というよりも、神秘そのものである。

ちなみに書名の由来は「土地に深く潜っていく」という行為を指す。自らの住み、生活する土地を時々、本書のようなみずみずしい視点で見直してみるのもおもしろい。