「知りません。教えてください」
自分が何を知らないのか、何ができないのかを適切に言語化する。その答えを知っていそうな人、その答えにたどり着ける道筋を教えてくれそうな人を探り当てる。そして、その人が「答えを教えてもいいような気にさせる」こと。
それだけです。
「それだけ」というわりにはけっこう大仕事ですけど。
喩えて言うと、こんな状況です。
道を進んでいたら、前方に扉があった。そこを通らないと先に進めない。でも、施錠してある。とんとんとノックをしたら、扉の向こうから「合言葉は?」と訊かれた。さて、どうするか。
「学び」とは何かということを学んできた人にとっては、答えは簡単です。
「知りません。教えてください」です。扉はそれで開きます。
「合言葉」というものはこれまでの道筋のどこかに置いてあったり、売っていたりして、それを自分はうっかり見逃したのだと思っている人は、あわてて来た道を戻ったりしますが、もちろんどこにもでき合いの「合言葉」なんて売ってはいません。学びの扉を開く合言葉は「知りません。教えてください」なんです。
内田樹『街場の教育論』