『目標達成の技術』

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【二度読むに耐えうる本】

無題

カイゾン・コーテ/中津川茜『ペンタゴン式 目標達成の技術』(幻冬舎)

自己啓発書にもときに当たりといえるものがある。

評者が本書を手にしたのは半ば偶然であり、知人がある出版社に紹介した本ができたので見てほしいと手渡されたためだった。

この種のアメリカ人が書いた自己啓発書は一時期かなり仕事柄読まざるをえなかったこともあり、正直なところ辟易だった。それに、たいていは主張するところは同じで、二度読むに耐えうるものはほとんどないというのが率直な印象だった。

だが、どんな本もめくってはみるものである。なかなかよくできている。何より訳文がいいのか、いわゆる「入ってくる日本語」である。

それに、主張ポイントに奥行きがあって、読み手の知りたいことが時間が経つほどにじんわり浸みてくるという温泉に似た境地に達している。二度以上読みたいと思わせる自己啓発書はこの惑星にさほど多いとは言えない。

持ち味は、すべて頭の中だけでねつ造されたものでないという点に尽きると思う。レモンの果汁をしっかりと搾り取るように、著者の体験と思索のエッセンスが適切に開示されているのを感じる。

『悪魔の辞典』のピアースの言葉「博学、それは学問に励む人間が陥る一種の〈無知〉である」が引用される。この一文は本書の主張内容を的確に表現していると思う。

一般にビジネス書のスタイルで多いのは、考え方を変えよというものだ。あるいはその系として、言葉を変えよ、口癖を変えよというものもある。いずれにしても、思考上の習慣を買えよとする点で共通している。

この本が独特なのは、今まであまり自己啓発でかえりみられることの少なかった「身体」に着目するところである。実際にペンタゴン(米国国防総省)で活用されている方法というのだが、いかにして「マインドフル」な状態を現出させるか、そのための身体運用の仕方や瞑想などの方法についてもかなりページ数をさき、かつ初学者にもわかりやすい説明が行われていると思う。

確かに先のピアースの引用文ではないが、知識の多さや深さが人としての満足感に直結するわけではない。現実に、豊富な知識を持ち、世間的な成功を手にしている人にはいつもいらいらしたり、精神的不調に悩まされる人も少なくない。

おそらく、理由は頭脳だけですべてを処理しようとするからである。かのイエス・キリストも福音書の中で軍人の廉潔さや正直さを褒めているくらいだが、軍人ほど身体と頭脳の連携が求められる仕事も少ない。

この本では、呼吸法を始め、瞑想の方法など、心の動きに直結する身体形式に着目した方法がたくさん出てくる。

確かにペンタゴンには超優秀な人たちが無数に参集する印象があるが、実際は逆で、ある方法を体系的に実践する結果としてペンタゴンは人材の宝庫となったのだと知る。

しかも、一つ一つがシンプルで、本を手にしたまま実践できる。なかなか本を一冊読んだくらいで得られるものは一般に限られているが、即効性が高くてかつ実践が容易な知見が選りすぐられて開示されているのを感じる。