アレントの言葉

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われわれを過去へと押し戻すもの

大方の予想に反して、われわれを過去へと押し戻すのは未来である。つねに過去と未来のはざまに生きる人間の観点から見ると、時間は連続体つまり途絶えることなく連続する流れではない。時間は中間すなわち「彼」が立つ地点で裂けている。そして「彼」の立つ地点は、われわれが通常理解しているような現在ではなく、むしろ時間の裂け目である。しかもこの裂け目は「彼」の絶えざる戦い、「彼」が過去と未来に抗することによって存在する。人間が時間のうちに立ち現れることによってのみ、また人間が自らの場を占めるかぎりでのみ、無差別な時間の流れは断ち切られ、[過去・現在・未来の]時制となる。この人間の立ち現れこそ、時間の連続体を過去と未来の力へと分裂させるのである。それはアウグスティヌスの言葉を用いれば一つの始まりの始まりである。

アレント『過去と未来の間』みすず書房