『グレートクリニックを創ろう!』

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【非営利組織に学ぶこと】

無題

内藤孝司・梅岡比俊『グレートクリニックを創ろう!』中外医学社

「よく、『教育すればいい』と言われていますが、教育したとしても、人材そのものが悪いと、結局失敗してしまうというのが私の経験からはっきりと言えます。悪い人材にどれだけの労力をかけてもほとんど成果は上がらず、徒労に終わります」

こんな見事なまでの本音が次々に出てくるのがたまらない魅力である。

医療や教育などの非営利組織に対して、さほどマネジメントの必要性は言われてこなかった。しかし、現在最もマネジメントを学ぶのに熱心なのは、医師、看護士、理学療法士といった医療関係者である。企業以上に深い関心を寄せる人々である。

本書はクリニックの院長が書いたものだ。多くのクリニックでは医師本人が経営に当たっている。医師は自らの治療領域については専門家だが、経営についてはまったく専門外である。それはプロ野球の選手が球団経営の素人であるのと理屈は変わらない。

この本の妙味は、行間からにじみ出てくる痛みである。痛覚である。マネジメントを学び実践するだけでも、筆者は時間と費用の支払いなどで痛みを伴う知識を仕入れている。さらにその実践的運用においても、数え切れないほどの煩悶を通過している。

結局のところ、楽譜をいくら凝視しても一つの音も聞くことができないのと同じで、いくらマネジメントの本を読んだところで現実の経営スキルを肌感覚で手にすることはできない。やはり「実際に経営してみた」人が書いたところに本書の値打ちがあると思われてならない。たとえば――。

「悪評はtwitterやmixi、facebookを介してあっという間に伝播していくことになります」

「診察室での会話は70%は、忘れられてしまうそうです」

「よくビジネス書には『怒るのではなく、叱るのがいい』と書いてありますが、当院は若い女性スタッフが多く、怒るのも叱るのも単に言葉のニュアンスが違うだけで結局は一緒かな、ということを13年間やっていてそう感じます」

「子供専用の大型のキッズルームを作りました。このコーナーは開院当初から設置してあるのですが、参考にしたのはショッピングモール内の子供専用の遊び場です」

著者は耳鼻科クリニックの院長で、患者の多くは子供である。いかにして子供や若い母親のニーズを満たすか、同時に付き添いの親に理解を促すかなどについて、現実の中の摩擦からしか生まれない知恵が溢れている。言わんとするところをあえて一言で表現すると、「原則として『患者さんはみな正しい』と考えるべきです」に集約されるであろう。

おそらく、企業というマネジメントの先進領域に関わる方にこそ本書を一読して欲しいと思う。必ず学ぶべきもの、あるいはうっかり見過ごしてきた何かが見いだせると思う。

そこにあるのは、たてまえの世界ではない。しっかりと丁寧に搾出された果汁のように濃縮度の高い知恵である。しかもわかりやすいところがいい。他の非営利組織についてもこの種の実践知識を教えてくれるものがあるといいと思う。